トランプが終わらせる「管理された紛争🇬🇧」4:Core 5

Core 5という言葉が、2025年末の米国国家安全保障戦略(NSS)をめぐる議論で浮上した。

米国、中国、ロシア、インド、日本という5カ国が定期的に集まり、中東安全保障をはじめとするテーマで実務的な対話を重ねる枠組みだという。G7のような「民主主義と経済力で選別されたクラブ」ではなく、大人口を抱える主権国家が集まるという点で、従来の多国間枠組みとは明確に異なる。

しかし本質は、誰が参加したかより誰が外されたかにある。

🇪🇺欧州諸国と🇬🇧英連邦コモンウェルスが除外された設計になっている。

コモンウェルスは現在56カ国、人口約27億人、世界人口の約3分の1を占める巨大なネットワークだ。インドはその最大の経済・人口大国でもある。それでもCore 5の設計では、インドは「英連邦の一員」としてではなく、独立した大国として位置づけられている。

この「除外」の意味を読み解かずにCore 5を語ることはできない。

なぜなら、これまでの国際秩序は「管理された紛争」を前提に回ってきたからだ。勢力均衡を保ち、代理勢力を操り、紛争を完全には終わらせないまま利益を引き出す構造。それが大英帝国以来の伝統であり、現代の欧州・コモンウェルス圏にも色濃く残っている。Core 5は、その構造から離脱する試みに見える。

目次

大英帝国圏を外すことの意味

管理された紛争」の本質とは何か?

紛争を完全には終わらせず凍結し、勢力図を外部勢力が調整し続け、影響力を次の政権にも引き継ぐ構造だ。ウクライナや中東で繰り返されてきた「終戦ではなく、停戦と管理」のパターンである。

トランプ政権が進めてきたアブラハム合意や三者間枠組みは、この管理構造の否定として位置づけられる。紛争を終わらせ、勢力図の決定を当事国の国内議論に委ね、外部勢力の継続的な介入を排除する方向性だ。Core 5は、その試みを世界規模の設計として押し広げようとするものだ。

「管理された紛争」の受益者は誰か?

歴史的に見れば、紛争を長引かせることで武器供与、資源支配、金融・貿易ルートの掌握といった利益を得てきた勢力だ。

大英帝国はまさにその手法を洗練させた。分割統治、代理戦争、勢力均衡。これらは「平和の不在」を恒常化させる装置だった。第二次世界大戦後も、形を変えながら欧州やコモンウェルスを通じた影響力として残存してきた。

EU諸国は、NATOやEUの多国間機構を通じてこの装置を現代的に運用してきた典型例である。

1999年のコソボへのNATO軍事介入では、ユーゴスラビアに対する空爆が民族浄化のエスカレーションを招いたと批判され、その後の地位管理やEULEXミッションも、完全な決着を先送りし、セルビアやロシアの不満を温存する「曖昧さの管理」を続けてきた。

またウクライナ戦争では、EUが大量の軍事・経済支援と制裁を通じて抵抗を支え、早期の交渉による決着ではなく、紛争の長期化を結果的にもたらす役割を果たしてきたと批判される。これらは大英帝国以来の「分割統治」や「勢力均衡による管理」の論理を、多国間機構の名の下に継承・洗練させた構造にほかならない。

Core 5が欧州とコモンウェルスを外すということは、この装置を世界秩序の中心から切り離すということだ。

単なる「仲間外れ」ではない。国民国家の主権と直接的な大国間取引を軸にした秩序へ移行しようとする、構造的な転換である。英国やEUが「管理する側」として機能してきた回路を遮断する設計だ。

Core 5の構成と機能

報道によれば、Core 5の構想は、2025年12月に公表されたトランプ政権の国家安全保障戦略の、公開されなかった「より長いドラフト」に記載されていた。

機能として想定されているのは、定期的なサミット開催とテーマ別対話である。

初の議題として挙げられたのが中東安全保障、特にイスラエルとサウジアラビアの正常化だ。ホワイトハウスは代替版NSSの存在を公式に否定している。ただしDefense OneとIntelliNewsという二つの独立した専門メディアが一貫して同じ内容を報じており、「大人口の主権国家による実務的クラブ」という方向性は報道として定着している。

この構想に現実味を与える動きがある。

2020年のガルワン衝突以来4年半にわたって膠着していたインドと中国の国境問題は、2024年10月に国境巡回合意が成立し、同年12月に部隊の引き離しが完全完了していた。

インドはコモンウェルス加盟国だが共和国であり、英国王との制度的な紐帯を持たない。Core 5はインドをその実力と地政学的役割で評価する。地ならしがあったからこそ現実味を帯びた設計だ。

国民国家の主権という原則

Core 5の本質は、国民国家の主権を軸にした秩序の再構築にある。

これは大英帝国型の「分割統治」や「代理戦争」とは根本的に異なる原則だ。

フランクリン・ルーズベルトは1943年のカサブランカ会談で、チャーチルに向かってはっきりと言った。

ファシズムからの解放を掲げながら、植民地政策の解体に動かないのか?」

「国から得るより与えるものが少ない18世紀的な植民地手法」を批判し、発展と解放によって安定をもたらすことこそがアメリカの論理だと主張した。

帝国の論理による勢力圏調整ではなく、主権国家の自己決定を優先する姿勢である。

アイゼンハワーは1956年のスエズ危機で、その論理をさらに明確に行動で示した。英国・フランス・イスラエルによるエジプト侵攻を認めず、旧帝国の植民地主義的行動を米国が直接止めた。

これらの事例に共通するのは、主権国家の論理を優先し、帝国の残滓を容認しない姿勢だ。

Core 5は、この系譜を現代の多極化の中で蘇らせようとする試みと見ることができる。欧州やコモンウェルスを「管理する側」として温存するのではなく、主要国が直接向き合う場を設けることで、紛争の「管理」ではなく「決着」を志向する構造である。

もちろん、これは理想論ではない。現実の力学の中で、どの国がどの利益をどこまで譲るかという取引が続く。ただし、取引の土俵自体が「帝国の回路」を外したものになる点で、従来とは質が異なる。

なぜこの平和は今まで来なかったのか

これまで見てきた和平への動き、アブラハム合意三者間枠組み、そしてCore 5という世界規模の設計図は、明らかに一つの方向性を示している。

🇬🇧大英帝国圏を外し、国民国家の主権と直接的な大国間取引を軸にした秩序への移行である。

しかし、なぜこのような平和の設計は今まで来なかったのか。

それは、戦後秩序の多くが大英帝国の論理:勢力均衡、分割統治、管理された紛争を温存したまま運用されてきたからだ。

欧州統合やコモンウェルスを通じた影響力、さらには現実政治の名の下に帝国の残影を正当化してきた思考が、完全な決着を阻んできた。Core 5が欧州とコモンウェルスを外したことは、その回路を断ち切ろうとする意志の表れにほかならない。

次回以降、紛争を管理し続けていたヘンリー・キッシンジャーという男を多面的に論考する。彼の現実政治は、帝国の論理を現代にどう翻訳し、どのように紛争の「管理」を洗練させてきたのか。Core 5が示す転換が、本当の意味で帝国の影を越えられるかどうかは、そこにこそ鍵がある。

参考文献

Defense One (2025/12/09) ‘Make Europe Great Again’ and more from a longer version of the National Security Strategy

2025年12月に公表されたトランプ政権NSSの「より長いドラフト」を詳細に報じた記事。Core 5の構成(米国・中国・ロシア・インド・日本)と欧州除外の提案、G7代替としての定期サミット構想、中東を初議題とする内容を明らかにした一次報道。
https://www.defenseone.com/policy/2025/12/make-europe-great-again-and-more-longer-version-national-security-strategy/410038/

bne IntelliNews (2025/12/10) Secret longer version of US National Security Strategy calls for Core 5 countries to run the world

Defense One報道を基にCore 5構想の詳細を深掘りした記事。C5が欧州不在のまま主要国による実務的枠組みとして位置づけられる意味と、現実主義外交への転換を分析。

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Firstpost (2025/12/12) Is Trump mulling a new ‘Core 5’ power bloc that includes India?

インド視点からCore 5構想を分析した解説記事。G7からCore 5への移行の地政学的意味と、インドが英連邦加盟国でありながら独立した主権国家として位置づけられる論理を詳述。

あわせて読みたい

The Commonwealth (公式サイト) Fast facts about the Commonwealth

英連邦の規模(56カ国、人口約27億人、世界人口の約3分の1)を公式にまとめた資料。インドが最大の経済・人口大国である事実も記載。Core 5が意図的に外した「除外」の規模感を示す根拠として使用。
https://thecommonwealth.org/about/facts

White House (2025/12) National Security Strategy of the United States of America November 2025

トランプ政権が2025年12月に公表した公式国家安全保障戦略。Core 5の背景となる全体方針(欧州批判、西半球重視、現実主義的アプローチ)とリークされた「より長いドラフト」との関係性を補完する一次資料。
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2025/12/2025-National-Security-Strategy.pdf

Brookings Institution (2025/12/08) Breaking down Trump’s 2025 National Security Strategy

公式NSSの内容を専門家が分析した解説。Core 5が公表版には明記されていない点と、全体の現実主義的転換を整理。公式NSSとリーク版の関係性および欧州戦略の文脈を補強する資料。

Brookings
Breaking down Trump’s 2025 National Security Strategy | Brookings Brookings experts break down what to take away from the Trump administration's 2025 National Security Strategy.

Schiller Institute (2011/01) January 23-29, 1943: The Casablanca Conference

1943年カサブランカ会談におけるルーズベルトとチャーチルの対立を詳述した資料。FDRが英国の植民地政策を「18世紀的手法」と批判し、発展と解放による安定をアメリカの論理として主張した発言の根拠。

U.S. Department of State, Office of the Historian The Casablanca Conference, 1943

カサブランカ会談の公式記録をまとめた国務省歴史資料。ルーズベルトが帝国の論理による妥協を排し、主権国家の自己決定を優先した姿勢を裏付ける一次資料。

あわせて読みたい

U.S. Department of State, Office of the Historian The Suez Crisis, 1956

1956年スエズ危機におけるアイゼンハワー政権の対応(英国・フランス・イスラエル介入の拒否)を公式にまとめた資料。旧帝国の植民地主義的行動を米国が直接止めた事例として、国民国家主権原則の連続性を示す文脈。

あわせて読みたい

Carnegie Endowment for International Peace (2024/12/11) Negotiating the India-China Standoff: 2020–2024

2020年ガルワン衝突から2024年12月の完全完了までのインド・中国国境交渉の全経緯を詳述した分析。2024年10月の国境巡回合意成立と同年12月の部隊引き離し完全完了を裏付ける資料。
https://carnegieendowment.org/research/2024/12/negotiating-the-india-china-standoff-2020-2024

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