オバマはとても忙しく忠実に、ご主人様に奉仕していた。
中東や東欧だけではなく、もちろん、アジアでもだ。
2009年のノーベル平和賞受賞は「国際外交と人々の協力の強化に向けた並外れた努力」が理由だそうだが、「国際外交と人々の協力の強化」の意味するところが、外国の政権転覆活動だったとは、呆れるしかない。
さて、今回は、大英帝国が仕掛けた香港返還という中国への罠と、その最後の仕上げとも言える雨傘革命について論考してみたい。
雨傘革命の表層:若者たちの純粋な叫び
2014年秋、香港の街は傘の海に覆われた。
若者たちが道路を占拠し、警察の催涙スプレーに対して傘を盾に掲げ、普通選挙を求めた。この運動は世界のメディアで「雨傘革命」と呼ばれ、中国に民主化を迫る若い力の発露として称賛された。表面的には、そう見えた。
きっかけは2014年8月の全人代常務委員会決定だった。
行政長官選挙で親中派に絞った候補者しか認めない内容に、香港の若者や中間層が反発した。ベニー・タイら大学教授が提唱した”Occupy Central with Love and Peace”が基盤となり、ジョシュア・ウォンら学生が前面に立った。数週間にわたりビジネス街を封鎖し、国際社会の注目を集めた。地元に根ざした不満が爆発したのは事実だ。しかし、それだけでは説明しきれない外部の影が、運動の持続と拡大を支えていた。
背後工作の現実:オバマ政権とNEDの長期種まき
ここでも鍵になるのが、全米民主主義基金(NED)だ。
NEDは1983年に米議会予算で設立された組織で、表向きは民主主義を支援する非政府団体だが、批判者からはCIAの公然版代理機関と見なされている。共同創設者のアレン・ワインスタインは1980年代に「25年前にCIAが秘密裏にやっていたことを今は我々が公然とやっている」と語ったとされる。
NEDの香港向け資金提供は1994年、つまり香港返還よりずっと前から始まっていた。1995年から2013年にかけて、市民人権戦線などの団体に190万ドル超が投入され、2012年には学生の政治参加促進プロジェクトに46万香港ドル相当が使われた。雨傘革命直前も数十万ドル規模の支援が続いていた。2014年以降、さらに2900万ドル超が香港・中国本土の「民主改革」名目で流れ込んだという公開データもある。
これらの資金は直接デモを指示したわけではない。
むしろ、長期にわたる草の根ネットワーク構築、アクティビスト育成、メディアやNGOを通じた価値観浸透が狙いだった。ジョシュア・ウォンやアップルディリーのジェームズ・ライ周辺の団体が間接的に関わっていた点も指摘されている。典型的なカラー革命のパターン、つまり自発的運動に見せかけつつ土台を固める手法である。
オバマ本人は公の場で関与を否定した。
2014年11月の訪中時、習近平との共同記者会見で「米国は香港の抗議活動を扇動していない。これは香港と中国の人々が決める問題だ」と述べ、言論の自由を支持しつつ慎重なトーンを保った。オーストラリア首相との会談でも同様だった。
しかし、オバマ政権下でNED予算が承認され、プロジェクトが活発化していた事実は変わらない。
オバマ政権は2011年、「アジア・ピボット」と呼ばれる戦略転換を打ち出した。欧州・中東に傾いていた米国の軍事・外交資源をアジアに集中させ、台頭する中国を牽制する構想だ。その対中包囲戦略の一環として、香港は格好のテストケースだった。
中国共産党がこれを「外国勢力の黒い手」と呼ぶのも、根拠ゼロの陰謀論とは言えない。資金の流れは公開されており、旧ソ連圏やアラブの春での類似工作と重なる。
アングロサクソンの罠:若者のエネルギーを利用した挑発
雨傘革命は表面的には中国に民主化を迫る運動として認識されたが、深いところでは英国や西側諸国が香港の若者のエネルギーを利用して、中国共産党に強硬策を取らざるを得ない状況へ追い込む作戦だった。
英国は1997年の香港返還後も、HSBCなどの金融利権と諜報網を維持していた。
元宗主国として「一国二制度」の履行を外交的に主張しつつ、デモの混乱を「終わらない不安定」として演出した。中国側が過剰反応すればするほど、西側は「人権侵害」の大義名分を得て、対中包囲網を固められる。実際、雨傘革命は2019年の大規模抗議と国家安全維持法導入の伏線となった。
中国は「一国二制度」の空洞化を世界に露呈させ、法による統治を強化せざるを得なくなった。
これにより、中国の覇権主義イメージが国際社会に定着した。
英国の勝ちである。アングロサクソンは香港の若者を道具に使い、中国共産党のメンツを潰し、経済的・軍事的包囲を完成させた。
帝国金融主義の次なる仕込み:台湾有事への伏線
さらに冷徹に読めば、これは帝国金融主義の「永遠の戦争」の一環だった。
香港を長年培ってきた国際金融センターとしての地位から、単なる中国の一都市へと格下げすることで、中国のオフショア人民元取引やドル調達ルートを大幅に制限し、国際金融市場での中国の影響力を弱体化させる狙いがあった。シティ・オブ・ロンドンを中心とする金融資本は、一国二制度を自ら破壊させる罠を巧みに仕掛けたのだ。
これが台湾有事への布石として極めて効果的だった点は見逃せない。

香港で一国二制度が事実上機能不全に陥った姿を、世界中、特に台湾の住民がはっきりと目撃したことで、「香港モデルによる平和的統一」という選択肢は完全に信用を失った。台湾人が「香港の二の舞」になることを強く恐れる心理を植え付けることに成功したのである。
中国共産党が香港で強硬策を取れば取るほど、台湾住民の目には「中国が約束した一国二制度など、結局は信用できない」という強烈なメッセージが刻み込まれる。中国が強硬に出れば出るほど、西側諸国は「中国の覇権主義的脅威」を国際社会に強く印象づけ、軍事的な包囲網強化やハイテク輸出規制、経済的なデカップリングをよりスムーズに正当化できる構造を整えた。
香港はまさに、戦略的に計算ずくで使い捨てられた戦場だった。
東アジアの地政学的緊張を意図的に維持・高め、次の大きな衝突への土壌を整える。それこそがアングロサクソン金融帝国の真の狙いだったと言える。
世界の不安定化が大統領の仕事
オバマ政権の業績は、常に世界の不安定化に貢献していたという残酷な結論に至る。
中東ではリビアをカオス化し、東欧ではウクライナを分断し、アジアでは香港で種をまいた。
価値観外交を看板に、低コストで他国を挑発し、世界の不安定化を強化するだけだった。ノーベル平和賞受賞者が、こんな偽善の奉仕者だったとは。スウェーデン国民は、何に加担しているのか、解っているのだろうか?
香港雨傘革命から10年以上が経ち、今も東アジアの緊張は続く。中国は強硬策で内側を固め、西側は包囲網を拡大する。英国の罠は見事に機能し、オバマは忠実に役割を果たした。若者たちの純粋なエネルギーは、帝国のゲームに吸い込まれた。
この状況は、トランプが大統領に就任するまで続いた。
参考文献
Qiao Collective (2020) Agents of Chaos: How the U.S. Seeded a Colour Revolution in Hong Kong
米情報機関が1997年香港返還前から長期的にカラー革命の土台を築いていたと分析。NEDが1994年以降に香港団体へ190万ドル超を投入し、2012年の学生参加促進プロジェクトなど、雨傘革命のネットワーク構築に寄与した点を詳細に指摘する核心資料。

— Qiao Collective Laura Ruggeri explores the work of U.S. intelligence agencies to seed a Hong Kong color revolution by exploiting a fundamental contradiction: the political retu...
MintPress News (2019) The NED Strikes Again: How Neocon Money is Funding the Hong Kong Protests
雨傘革命以降のNEDによる香港向け2900万ドル超の資金投入を公開データに基づき指摘。ジョシュア・ウォンやジェームズ・ライ周辺団体への間接支援を挙げ、NEDを「CIAの公然版」と位置づける批判的論考。

China Daily (2014/10/20) NED donation is proof of a ‘color revolution’
民主派議員リー・チョクヤンへのNED系資金164万ドルとオキュパイ・セントラル(雨傘革命基盤)への関連を報じ、外国資金依存がカラー革命の典型特徴であると主張した当時の一次記事。
http://www.chinadaily.com.cn/hkedition/2014-10/20/content_18767256.htm
president.jp (2019/09/27) 中国共産党が恐れる「香港デモ」でのCIAの暗躍
旧ソ連圏での「民主化工作」の再来か
日本メディアの視点からCIA・NEDの香港工作を旧ソ連圏カラー革命と比較分析。中国共産党が警戒する外国勢力の影響力工作の実態を論じたバランス記事。

AP News (2014/11/12) Obama says US had no role in Hong Kong protests
オバマが訪中時の習近平との共同記者会見で「米国は香港抗議を扇動していない」と明確に否定した発言を報じた記事。政権の公式スタンスを示す一次ソース。

Politico (2014/11/11) Obama speaks out, carefully, on Hong Kong
オバマがオーストラリア首相トニー・アボットとの会談で香港問題に初めて公に言及した際の報道。オバマは「言論の自由や開放的な政府といった米国の価値観」を強調しつつ、中国を直接刺激しないよう極めて慎重なトーンを保ち、暴力回避を優先すると述べた。この「慎重さ」が、オバマ政権の価値観外交の表と裏(公的否定と裏での工作支援のギャップ)を象徴的に浮き彫りにする記事。
https://www.politico.com/story/2014/11/obama-china-hong-kong-112743
Wedge ONLINE (2014/11/18) 香港デモに対するオバマ政権の稚拙な対応
オバマ政権のアジア・ピボット政策と香港対応の矛盾を保守寄りに批判。「民主推進」を叫びながら実行力が伴わなかった点を指摘した日本論考。




