トランプは中東で誰と交渉をしているのか?

イラン情勢の報道」が、相変わらず、よくわからない。

トランプ大統領はイランについて「彼らは我々に贈り物をくれた」と語った。

一方、イラン側は交渉の存在そのものを否定している。

トランプが話しているイランと、メディアが紹介しているイラン、本当に同じ国なのだろうか?

先日、トランプはイランとの協議が真剣なものだと明言し、なぜそのプロセスを信頼するのかと問われてこう答えた。

「なぜなら、彼らは合意に至るからだ。間違いなく合意に至る。実は昨日、彼らは驚くべきことをしてくれた。私たちにプレゼントをくれたのだが、それが今日届いた。莫大な金額に相当する、非常に大きなプレゼントだった。それが何かは言わないが、非常に重要で、貴重な品だった。彼らはそれを私たちに渡すと言い、実際に渡した。つまり私にとってそれは、適切な相手と取引しているということを意味する。」

報道によれば、この「贈り物」はエネルギー関連—ホルムズ海峡を通じた燃料タンカーの安全通行など、実質的な善意の証しだったとされる。トランプはこれを「正しい相手と話している証拠」と位置づけ、本格的な交渉が進行中であることを示唆した。

ところが、オーストラリアのABCニュースをはじめとする西側メディアの多くは、これを「トランプが折れた」「威嚇を撤回した」と報じた。確かに表面上、脅しのトーンは後退している。だが本質はまったく別の話だ。

トランプは後退したのではなく、新たな外交の舞台を切り開いている。メディアは、その舞台が見えていないか、見ようとしていないかのどちらかだ。

トランプが中東で動かしているネットワークとは

トランプが実際に交渉している相手は、イランの「適切な人物」一人ではない。地域全体の「適切な人物たち」とのネットワークが、同時並行で動いている。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はその詳細を報じた。エジプト、トルコ、サウジアラビア、パキスタンの外相が、リヤドで未明に会合を開き、外交的な出口戦略を練っていた。パキスタンのシャリフ首相はイランと米国の会談開催地として自国を申し出、トランプはそれをリツイートして支持を示した。

レバノン政府はイランの主要代理組織ヒズボラに武装解除を命じ、パレスチナ自治政府はイランによる湾岸諸国への攻撃を公に非難し、サウジアラビアとの連帯を表明した。これらは時期をずらしながら連動した、地域再編の動きだ。

そして「その場にいない」のが誰かを見れば、構図はさらに明確になる。英国、EU、NATOだ。彼らは単に招待されていないのではなく、意図的に外されている。英国や欧州諸国は、そのお気に入りの環境政策ともども、文字通り「冷遇」されている。ウクライナでの代理戦争も、同じ扱いだ。

主流メディアはこれを「後退」と呼ぶ。だがトランプがやっているのは、旧来の帝国主義的な外交の土俵を降りて、別のゲームを始めることだ。その新しいゲームの通貨は、軍事的脅威でも国際機関の承認でもなく、各国の実体経済と現実のパワーバランスである。

もっとも、この多層性を理解するには、中東そのものの複雑さを直視しなければならない。1916年のサイクス・ピコ協定で欧米列強が勝手に引いた国境線が、今日も中東の国家像を歪め続けている。多くの国は、表向きの中央政府の下に、部族・宗派・遊牧民的なネットワークが複雑に絡み合う「多層国家」だ。

独立国かどうかさえ定かでない実態が、そこにはある。一国と話せば済むという発想自体が、そもそも的外れなのだ。

サウジアラビアはスンニ派の盟主であり、シーア派のイランとの代理戦争を長年続けてきた。トルコはオスマン帝国の残影を背負い、独自の野心を持つ地域大国だ。パキスタンは核保有国であり、イランと国境を接しながら、米中双方と複雑な関係を維持する。エジプトはイスラエルとの和平経験を持つアラブ世界の重鎮として仲介役を担う。

これらの国々がリヤドの未明会合のように連携するとき、中東和平は初めて現実味を帯びる。二国間交渉という西側的な発想では、到底この現実を捉えきれない。

Core 5—欧州を外した和平の設計図

ここで浮かび上がるのが、「Core 5」の構想だ。

2025年末にリークされた情報によれば、トランプ政権は米国・中国・ロシア・インド・日本による新たな多極的枠組み「Core 5」を検討していたとされる。ホワイトハウスは公式にその存在を否定しているが、複数のメディアが独自に報じており、内容の信憑性は高い。

初回議題の一つには、中東和平—特にイスラエルとサウジアラビアの関係正常化—が挙げられていた。G7のような西側中心の形式的な枠組みではなく、実力ある大国が現実的な利害を直接調整する場だ。

中東和平の主役は、このCore 5の勢力圏にある。欧州は含まれていない。大英帝国、EU、NATOは意図的に「その場にいない」。なぜか。端的に言えば、彼らこそが永遠の戦争を作り続けてきた勢力だからだ—そしてその体質は、今も変わっていない。

歴史を振り返れば、大英帝国の「分割統治」の論理、サイクス・ピコ協定による恣意的な国境線、冷戦後の介入主義、そして近年の「環境政策」を名目にしたエネルギー市場の歪曲と紛争の間接的な助長。ウクライナでの代理戦争も、その延長線上にある。

欧州は自らの衰退を認めず、「ルールに基づく国際秩序」という虚飾の裏で、実際には自らの影響力維持を最優先してきた。トランプはそれを明確に拒否している。

Core 5では、インドがアジアの人口大国として中国・ロシアのバランス役を担い、日本が技術・経済の安定供給者として位置づけられる。中国とロシアはすでに中東で一定の影響力を持つプレーヤーだ。この枠組みの中で、中東のエネルギー安定と和平は、グローバルなサプライチェーンの再構築とも連動する。

欧州メディアの一部は、この構想を「EU排除の陰謀」と批判し、米国がオーストリア、ハンガリー、イタリア、ポーランドにEU離脱を促す可能性まで指摘している。確かに、トランプの現実主義は欧州の「文明的消滅」を加速させるリスクを孕むかもしれない。だがそれは、欧州自身が長年積み重ねてきた選択の結果でもある。

NATOの役割低下を嘆く声もあるが、永遠の戦争を支えてきた枠組みに固執する方が、よほど危険だ—少なくとも、トランプの視点からすれば。

ユーラシアからの視点

Eurasiaの視点から見れば、トランプが中東で切り開いている外交は、すでに欧州を超え、アジアの平和秩序にも波及しつつある。多極世界では、一極支配の幻想ではなく、実体経済を軸とした相互調整が鍵となる。

中東は遠い紛争地ではない。エネルギー、貿易ルート、技術供給の結節点だ。そこでトランプが構築しようとしているのは、欧州の影を払拭した新たな現実主義の枠組みである。

皆さんに問いたいのは一つだ。報道の表層的な「後退」論に惑わされず、トランプが誰と、どんな価値観で交渉しているのかを、冷静に見極められているか?

イランからの「贈り物」が象徴するように、そのゲームはとっくに動き始めている。

目を凝らして、新しいグレートゲームの行方を見てはいかがだろうか?

参考文献

ABC News (2026/03/24) Donald Trump backs down on threats to Iran

イランへの攻撃脅威に対するトランプ氏のトーン後退を報じたオーストラリア公共放送の記事。西側メディアの典型的な「腰が引けた」「後退した」という表層的な解釈を繰り返しており、裏外交や地域全体の連動した動きをほぼ無視した論調が特徴的である。本エッセイの導入部で、報道と現実の乖離を指摘する際に用いた。

あわせて読みたい

Wall Street Journal (2026/03/24) The Back-Channel Diplomacy Behind Trump’s U-Turn on Iran

トランプ氏のイラン政策転換の背景にある裏外交を詳細に報じた重要記事。エジプト、トルコ、サウジアラビア、パキスタンの外相によるリヤド未明会合の存在や、イラン国内の交渉相手探しの難しさを具体的に描いている。本エッセイの第2章・第3章で最も依拠した核心ソースであり、中東国家の多層性を理解する鍵となる。

https://www.wsj.com/world/middle-east/the-back-channel-diplomacy-behind-trumps-u-turn-on-iran-b70efc60

Firstpost (2025/12/12) Is Trump mulling a new ‘Core 5’ power bloc that includes India?

トランプ政権が検討しているとされる「Core 5」(米国・中国・ロシア・インド・日本)構想を、インドの視点から分析した解説記事。G7からCore 5へのシフトがインドの地政学的・経済的地位に与える利益を肯定的に評価し、多極世界への現実主義的転換を論じている。中東和平との連動性を考える上で重要な資料。

https://www.firstpost.com/explainers/trump-core-five-us-india-china-russia-japan-nss-13959060.html

Gulf News (2025/12/12) Trump’s alleged ‘Core Five’ plan sparks debate over future of global power

中東メディアの視点からCore 5構想を論じた記事。イスラエル・サウジアラビア関係正常化を初回議題とする可能性に期待を寄せつつ、米国の単独覇権放棄が中東のパワーバランスに与える影響を中立的に考察している。欧州排除の文脈を理解する副次的ソース。

Gulf News: Latest UAE news, Duba...
Trump’s alleged ‘Core Five’ plan sparks debate over future of global power New proposed grouping to include US, China, Russia, India and Japan

The Times (2025/12/11) Leaked files ‘show US wants to persuade four nations to leave EU’

Core 5構想に関連するリーク文書を報じた英国メディアの記事。米国がオーストリア、ハンガリー、イタリア、ポーランドにEU離脱を促す可能性を指摘し、欧州の視点からトランプ政権の反EU姿勢を批判的に描いている。欧州が中東和平の枠組みから意図的に排除される論理を裏付ける。

https://www.thetimes.com/us/american-politics/article/us-mega-eu-trump-pqhz8gplr

European Pravda (2025/12/11) Media: Trump team said to have discussed forming alliance with China and Russia

トランプ陣営が中国・ロシアを含む同盟形成を議論したとする欧州メディアの報道。NATOの役割低下やウクライナ和平への影響を警戒する論調ながら、Core 5が欧州を意図的に疎外する構想であることを明確に示している。トランプ外交の現実主義と欧州の「永遠の戦争」体質の対比を考える材料となる。

https://www.eurointegration.com.ua/eng/news/2025/12/11/7226920

トランプ大統領「彼らは我々に贈り物をくれた」発言関連動画(2026/03/24)

トランプ氏がイランから「莫大な金額に相当する非常に大きなプレゼント」を受け取ったと語り、「適切な相手と取引している」証拠だと強調した直接の発言ソース。本エッセイの導入部で引用し、報道とのギャップを際立たせるために用いた。

トランプ大統領「我々は中東のパートナー諸国を強く念頭に置いている」発言関連動画 (2026/03/24)

イランに関する協議において、地域全体のパートナー諸国が中心的な役割を果たしていることを確認したトランプ氏の発言動画。裏外交の文脈を補完し、第2章で中東ネットワークの重要性を説明する際に参照した。

Donald J. Trump (@realDonaldTrump) Truth Social (2026/03/26)

イラン政府の要請を受け、エネルギー施設破壊の猶予期間を10日間延長(2026年4月6日まで)すると発表したトランプ大統領の公式投稿。「交渉は進行中であり、非常に順調だ」と強調し、Fake Newsの誤った報道を否定した内容。本エッセイでトランプのイラン交渉姿勢と「適切な相手との取引」を直接示す一次ソースとして有用。

Truth Social
Truth Social Truth Social is America's "Big Tent" social media platform that encourages an open, free, and honest global conversation without discriminating on the basis of ...

Narendra Modi (@narendramodi) Truth Social (2026/03/24)

トランプ大統領から電話を受け、西アジア(中東)情勢について意見交換したと報告したインド首相の公式投稿。インドは緊張緩和と早期和平を支持し、ホルムズ海峡の安全確保が世界的に重要であると強調。和平努力で連絡を継続することで合意した内容。Core 5構想や中東和平におけるインドの役割を補完する一次ソース。

Truth Social
Truth Social Truth Social is America's "Big Tent" social media platform that encourages an open, free, and honest global conversation without discriminating on the basis of ...

パキスタン・シャリフ首相、イランと米国の会談開催を申し出およびトランプ氏リツイート(2026/03/24)

パキスタン首相がイラン・米国会談の開催地として自国を提案し、トランプ氏がこれを支持したことを示す情報源。中東全体を巻き込んだ外交の動きを具体的に裏付ける。

Trump's Truth

レバノン政府、ヒズボラ武装解除を要求 (2026/3/2)

イランの主要代理組織であるヒズボラに対し、レバノン政府が武装解除を命じた動きを報じた情報源。イラン影響力の低下と地域連動の兆しを示す事例として第2章で言及。

Syrian Arab News Agency (SANA)
Lebanon bans Hezbollah military activity, orders group to hand over weapons Beirut, March 2 (SANA) Lebanon’s government on Monday banned Hezbollah from carrying out any military or security activities and ordered the group to hand

パレスチナ自治政府、イランを非難しサウジアラビアに同調 (2026/03/21)

パレスチナ自治政府がイランによる湾岸諸国への攻撃を公に非難し、サウジアラビアとの連帯を表明した歴史的な転換を報じた記事。中東の勢力再編を象徴する事例として用いた。

https://english.alarabiya.net/News/middle-east/2026/03/21/palestine-condemns-iranian-attacks-on-saudi-arabia

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