未来予測特集、でご存じの方も多い英『エコノミスト』誌。
スノッブと狂気が漂ってくる雑誌を開くと、そこには現実の世界とは180度異なる、
彼らの妄想上の楽園が整然とした―それでいて意図的に難解で、読者に「これが理解できないのは君の知性が足りないからだ」と言わんばかりの―英文で綴られている。
彼らににとって、世界はエクセルのスプレッドシートのように管理されるべき平坦な場所であり、国境や主権といったものは、効率的な物流を邪魔する古臭い障害物に過ぎないようだ。
先日公開された、同誌のデビッド・レニーによるジェイミーソン・グリア通商代表へのインタビューは、この「知的エリートの傲慢」と「地に足のついた現実主義」が真っ向から衝突した、実に興味深い喜劇だった。
インタビューの冒頭、レニーは溜息混じりに、いかにも心を痛めたという風を装って問いかけた。アメリカの強硬な関税政策によって「アメリカを尊敬し、セキュリティ同盟で深い関係を持つ国々が、あなたの政権の扱いに心を痛めている」と。さらに彼は、アメリカが数十年にわたって築き上げてきた外交的な信頼という「資本」を使い果たしているのではないか、と貴族的な懸念を表明したのである。
これに対し、グリアは眉一つ動かさず、冷徹な真実を突きつけた。 「彼らはアメリカ市場に大量の商品をダンピングして私たちのビジネスを潰した時、心を痛めましたか? 中西部の工場がベトナムやメキシコに移転した時、心を痛めましたか? フェンタニルが流入してアメリカ人を殺した時、心を痛めましたか? 私はそうは思いません。」
グリアのこの言葉は、過去30年間にわたって「自由貿易」という美しいラベルの下で行われてきた略奪の歴史を、一瞬にして白日の下にさらした。レニーが守ろうとしているのは、実はアメリカ国民の利益ではなく、アメリカを「寄生先」として利用し、無条件の市場開放を謳歌してきた海外の受益者たちの特権なのだ。
30年続いた「片道切符」の自殺協定
グリアは、この30年間の貿易政策を「自殺協定」という極めて刺激的な、しかしこれ以上なく正確な言葉で定義している。
「過去30年間苦しんだものは、WTO協定やNAFTAなどの貿易協定が石のように固定され、変更されないという幻想です。たとえそれがアメリカの工場の国外流出と、それに伴う自国産業の空洞化、そして国内雇用の切り捨てを招き、中国を米国最大の製造国に変貌させる原因であったとしても、我々はこれを自殺的な協定として死守しなければならない。それはもはや狂気であり、主権と経済活力の喪失のレシピに他なりません」
グローバルエリートたちは、この「石のように固定されたルール」を「ルールに基づく秩序」と呼び、あたかもそれが人類共通の聖書であるかのように神聖視してきた。だが、その実体は、彼らがチェス盤を独占し、自分たちに都合の良い駒の動かし方を固定しただけの「支配のシステム」に過ぎない。そのルールが自国のコミュニティを破壊し、家族をバラバラにしている時、それを「秩序だから」と盲信して受け入れるのは、国家として人間としての自己放棄である。
金融制裁の傲慢と「逆噴射」の喜劇
さらに滑稽なのは、レニーが関税を「いじめ」や「残酷な武器」として描き出そうとした際、グリアが「金融制裁」という西欧の真の毒薬を持ち出して逆襲した場面だ。
「米国は長年、地政学的な出来事に対して金融制裁を使ってきました。金融制裁は、国や企業、個人をグローバル金融システムから切り離すものです。それに対し、大統領が提示している関税は、完全に切り離す代わりに手数料を課すだけ。これはむしろ、より穏やかな手段です」
この指摘には、西欧諸国が抱える巨大な偽善が凝縮されている。彼らは気に入らない国があれば、ドルの支配力を武器に、その国の決済網を断ち切り、経済的に窒息させることを「文明的な外交」と称してきた。だが、その傲慢な剣がウクライナ情勢でロシアに対して振り下ろされた時、歴史的な「逆噴射」が始まったのである。
彼らがロシアをSWIFTから追放し、ドルの力を見せつけようとした結果、何が起きたか。制裁を主導したはずの欧州、特にドイツの製造業が真っ先に沈没したのである。
安価なエネルギー供給源を自ら断ち切った結果、ドイツの自動車業界はコスト高騰で競争力を失い、かつての「欧州の機関車」は見る影もなくなった。ドイツの一般家庭を襲ったのは、跳ね上がった電気代の請求書と、冬の寒さへの恐怖だった。ロシアを「経済的に抹殺」しようとしたエリートたちの計画は、自国の国民の生活を破壊するという皮肉な結末を迎えた。彼らが「ルール」や「制裁」という抽象的な正義に酔いしれている間、現実の経済は、彼らが「悪」と呼んだ隣人との繋がりに支えられていたことにようやく気付いたのだ。
主権の回復:自国民を「正しく」心配するために
グリアが「心を痛めることについて考える時、私が心配するのは、工場を失った中西部の家族の崩壊だ」と述べた時、その視線の先には、エリートが無視し続けてきた「実体経済の痛み」がある。
「フランス、スウェーデン、メキシコの指導者たちは、他国の顔色を伺うのではなく、自分たちの国民を心配すべきなのです。30年も40年も前の協定に縛られ、中国が世界の製造国になるのを指をくわえて見ている必要はありません。そうでなければ皆が心を痛めるからといって。そんなものが正しい方法だとは思いません」
この力強い宣言は、アメリカだけでなく、現在グローバリズムの残骸の中で喘ぐすべての国家への福音だ。日本も、そして欧州諸国も、もはや「世界共通の幻想」に付き合う必要はない。関税を武器に、自国の経済主権、自国の農業、そして自国のコミュニティを守り、安易な移民政策によって社会の紐帯を壊すことを拒絶する。それこそが、本来あるべき「主権国家」の姿なのだ。
最後に、地理的な現実に目を向けよう。我々日本にとって、そして欧州にとって、最も身近な隣人の一人はロシアである。エリートたちが『エコノミスト』の誌面でどれほど「共通の価値観」を叫ぼうとも、物理的な隣人との互恵的な関係以上に、自国民の暖炉を温め、工場のラインを動かすものはない。日本から一番近いヨーロッパはロシアなのだという事実を、皮肉とともに噛み締めるべきだろう。幻想の「世界」と仲良くするより先に、現実の隣人と正しく付き合い、自国の腹を満たす知恵を取り戻すこと。グリアが示した不確実性の海へ漕ぎ出す勇気こそが、グローバルエリートが持ち得ない、真の自立への第一歩かもしれない。
参考文献:
Are America’s tariffs here to stay? | Inside Geopolitics (The Economist 公式YouTubeチャンネルによるジェイミーソン・グリア通商代表へのインタビュー動画)
