トランプがアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)について執拗に批判を展開していたことは、多くの人がご存知だろう。
しかし、その批判の意味を正確に理解している人は、果たしてどれくらいいるだろうか。
第一に、はっきりさせておきたいことがある。FRBは、国営の中央銀行ではない。
アメリカ政府が所有する機関でも、国民が選んだ議会が管理できる機関でもない。100%民間資本による、私的な組織だ。この一点だけで、すでに話は相当怪しくなる。
「中央銀行の独立性」という言葉を、あなたはどこかで聞いたことがあるはずだ。政治から独立した専門家集団が、冷静に経済を管理する—そういうイメージを植え付けられてきた。だが独立とは、誰からの独立なのか。政府からではなく、アメリカ国民からの独立だったとしたら?
トランプがFRBを根本から変えるべきだと考えていることは間違いない。
そして2026年5月13日、その怒りが結実した。ケビン・ウォーシュが上院でFRB議長に承認され、ジェローム・パウエルの後任として就任した。保守派にとって、これは待望の帝国金融支配システムへの勝利だ。
FRB・パウエルへの攻撃—何が起きていたのか
トランプがジェローム・パウエル前FRB議長に浴びせ続けた言葉は、シンプルだった。「Too Late」。
利下げのタイミングが遅い、判断が鈍い、政治的だ。そういった批判をSNSや会見の場で繰り返し、2025年末から2026年にかけては、パウエル解任の可能性すら公然と議論されるようになった。
しかしこの「喧嘩」を、大統領と中央銀行総裁の個人的な確執として読むのは表層的すぎる。
財務長官スコット・ベッセントもまた、FRBの政策運営を根本から批判している人物だ。
彼の言葉を借りれば、2008年の金融危機後にFRBが打った政策は「本来やるべきことの範囲を大きく超えてしまった」ということになる。
難しい話に聞こえるかもしれないが、金融危機の結果だけ見れば単純だ。株や不動産を持っている人の資産は膨らんだ。持っていない人は、何も得られなかった。
FRBが市場に大量の資金を流し込むたびに、その恩恵は資産家に集中し、普通に働くアメリカ人の生活は置き去りにされた。得をした側と、損をした側。ベッセントが批判しているのは、その構造そのものだ。
批判はトランプ政権内にとどまらない。
元下院議員のロン・ポールは、トランプと必ずしも政治的に同軌しているわけではない。むしろ長年、孤立無援に近い形で同じ問題を指摘し続けてきた人物だ。ポールは現在の米国金融システムを「詐欺」と呼ぶ。そして「パウエルを誰かに替えても意味がない」とも述べている。問題は議長個人ではなく、FRBという制度そのものだ、と。
なぜそう言い切れるのか。それを理解するには、FRBという組織の正体を知ってもらわなければならない。
FRBの正体:「国営」という神話の解体
FRBは1913年に設立された。正式名称は連邦準備制度理事会。「連邦」という言葉がついているせいで、多くの人が政府機関だと思い込む。私もかつてそう思っていた一人だ。しかしFRBの株主は民間銀行であり、アメリカ政府はその株を一株も持っていない。
構造はこうなっている。FRBは全米12の連邦準備銀行から成り、その頂点に立つのがニューヨーク連銀だ。そしてニューヨーク連銀の株主は、JPモルガン・チェース、シティバンク、ゴールドマン・サックスといったウォール街の大手金融機関である。つまりFRBとは、民間銀行が出資し、民間銀行のために運営される組織だ。アメリカの通貨発行権を、民間が握っている。
考えてほしい。
お金を「作る」権限を持つとはどういうことか。簡単に言えば、何もないところから通貨を生み出し、それを市場に供給する権限だ。
経済学者のリチャード・ヴェルナーは著書『円の支配者』の中で、この通貨創造権こそが一国の経済を支配する最強の道具であると指摘している。予算を組む政府よりも、法律を作る議会よりも、通貨の量と流れをコントロールする者が、実質的に経済の舵を握る。その権限が民間の手にある。
では、その民間とは具体的に誰なのか。
ニューヨーク連銀の株主構造を辿っていくと、シティバンク—すなわちシティグループ源流—が浮かび上がる。シティグループはシティ・オブ・ロンドンの金融ネットワークと深く接続した機関であり、19世紀から20世紀にかけての英米金融統合の産物だ。
学術的にも、ニューヨークとロンドンの二大金融センターが形成する「NY-LON軸」が、世界の金融システムを実質的に支配してきたことは、複数の研究によって裏付けられている。
FRBはシティ・オブ・ロンドンとそのウォール街のパートナーたちに奉仕するために誕生した—という見方がある。陰謀論めいて聞こえるかもしれない。しかし「中央銀行の独立性」という言葉の意味を、じっくりと考えてほしい。
政府からの独立。それは同時に、国民からの独立でもある。誰が通貨を管理し、誰がその恩恵を受け取るのか。その問いに答えを出せる民主的な仕組みが、FRBには最初から存在しない。
ロン・ポールが「詐欺」と呼んだのは、そういう意味だ。
ウォーシュという男—体制転換の旗手
2026年4月、ケビン・ウォーシュは上院銀行委員会の公聴会に姿を現した。トランプが次期FRB議長として指名した人物だ。
彼の発言は明快だった。
「生活費の問題ほど差し迫った課題はない。コロナ禍以降、アメリカ国民のほぼすべての所得層において物価が25%から35%も上昇した。これはFRBが目標を達成できなかったことを示している」
批判はそこにとどまらなかった。2008年の金融危機後、FRBが大規模な量的緩和で市場を救済したとき、その恩恵を受けたのは誰だったのか。ウォーシュはこう述べた。
「アメリカ国民の半数は金融資産を一切保有していない。彼らは自分たちにとって何の得があるのかと疑問に思っている」。
株を持っている人の資産は守られた。持っていない人には、インフレだけが残った。
ウォーシュのインフレ観も、従来のFRBの論理とは一線を画している。経済が成長したから物価が上がる、賃金が上昇したからインフレになる—そういった説明をFRBはしばしば使ってきた。しかしウォーシュはそれを否定する。
「インフレは、政府が通貨を過剰に発行したときに起きる。ここで言う政府とは、中央銀行のことだ」。
責任の所在を、FRB自身に向けた発言だ。
ベッセント財務長官も同じ方向を向いている。彼は以前から「焦点は市場の救済ではなく、生活水準の向上にあるべきだ」と述べてきた。ウォーシュとベッセント、そしてトランプ。三者の批判は、同じ一点に収束している。FRBはこれまで、誰のために動いてきたのか。
ウォッシュが掲げる改革の核心は、「体制転換」という言葉に集約される。金融資産保有者の利益を守るための機関から、普通に働くアメリカ人の生活水準を向上させるための機関へ。FRBの役割そのものを、根本から組み替えようということだ。
トランプがこの男を「自分のすぐ隣に置きたい」と語ったことの意味は、そういう文脈で読む必要がある。
シティの牙城を崩す—民主主義の奪還
ここまで読んできた方には、もう見えているはずだ。
FRBの「独立性」とは、政治からの独立ではなかった。アメリカ国民からの独立だった。1913年の設立以来、FRBはシシティ・オブ・ロンドンとそのウォール街のパートナーたちのために機能してきた。ウォーシュはそれを公聴会の場で認めた。トランプはその男を、自分の隣に座らせようとしている。
2026年4月、トランプはSNSにたった4語を投稿した。「WORLD EXTORTION」。すべて大文字で。金、石油、保険—世界経済の根幹を支える価格決定権が、特定の勢力によって支配されてきた構造への宣戦布告だ。シティ・オブ・ロンドンを中心とした国際金融システムが、1世紀以上にわたって「恐喝」を続けてきたという認識が、その4語に凝縮されている。
既存秩序の側も、動揺を隠せていない。
英国のシンクタンク、チャタム・ハウスは2026年4月、米国上院と合同で「英米の特別な関係は生き残れるか」と題したイベントを開催した。かつての緊密な同盟関係が「もはや特別ではない」ものへと変貌しつつある現実を、彼ら自身が認めざるを得なくなっている。ベッセントはフィナンシャル・タイムズの報道を「捏造」と切り捨て、「大西洋のこちら側で英国モデルを再現する気など毛頭ない」と言い放った。米国独自の金融秩序を構築するという意志の表明だ。
ロン・ポールはこう言い続けてきた。議長を替えても意味がない、と。制度そのものを問い直さなければならない、と。息子のランド・ポール上院議員は「Audit the Fed」法案を繰り返し提出してきた。FRBが秘密裏に何をしているのか、国民が知る権利があるという主張だ。
ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマンでさえ、かつてこう述べている。FRBは存在しない方が、経済はより良く機能しただろう、と。
党派を超えて、同じ問いが突きつけられてきた。それでもFRBは100年以上、その問いをかわし続けた。
そして今、アメリカの歴史を振り返れば、この動きには別の文脈もある。アレクサンダー・ハミルトンやヘンリー・クレイが提唱した「アメリカン・システム」—国内産業を守り、金融主権を国民の手に取り戻すという思想だ。トランプ政権の経済哲学は、その系譜に連なるものとして読むこともできる。
外部の金融勢力に通貨主権を明け渡したまま200年が過ぎた。その構造を、いま正面から問い直そうとしている。
FRBがシティ・オブ・ロンドンのアメリカ支店だとすれば、その改革とは単なる金融政策の話ではない。アメリカ国民が自国の通貨を取り戻す、民主主義の問題だ。
300年続いた構造は、一つの政権交代で消えるほど薄くはない。だが少なくとも今、その牙城に初めて本気のメスが入ろうとしている。
さて、あなたはこの動きを、どう読むか?
参考文献
Reuters (2026/05/13) Warsh clinches Senate approval to be Fed’s next chair as inflation intensifies
上院がウォーシュ氏をFRB議長に承認(54-45)した詳細を報じた記事。党派対立の強さとインフレ高進下での就任という文脈を説明。ウォーシュ氏の理事承認(5月12日 51-45)から議長承認までの流れも記載。
NPR (2026/05/13) Senate confirms Kevin Warsh as next chair of the Federal Reserve
ウォーシュ氏承認の政治的意義を分析した報道。トランプ政権との協調可能性と独立性誓約の両面を指摘し、保守派が求める「体制転換」の象徴として位置づけられる。
https://www.npr.org/2026/05/13/nx-s1-5816235/kevin-warsh-federal-reserve-chair-jerome-powell
Senate Banking Committee (2026/04/21) Warsh Senate Banking Committee Testimony Full Hearing
ケビン・ウォーシュ氏の上院銀行委員会公聴会全編映像。「致命的な政策ミス」「体制転換の必要性」「インフレは中央銀行の過剰通貨発行が原因」などの核心発言が確認できる一次資料。就任承認の基盤となった内容。
The White House (2026) Nominations Sent to the Senate – Kevin Warsh
トランプ大統領によるウォーシュ氏指名時の公式発表資料。「史上最高のFRB議長の一人」「central casting(完璧なキャスティング)」などのトランプ氏評価も参照可能。

Truth Social (2025) Donald Trump posts on Powell: “Too Late”
パウエルFRB議長の利下げ判断を「遅すぎる」と繰り返し批判したトランプのSNS投稿。金利政策への大統領の直接介入を示す一次資料であり、FRBの独立性をめぐる政権とFRBの対立の起点となった。
The International Economy (Spring 2025) The Fed’s New “Gain-of-Function” Monetary Policy
財務長官スコット・ベッセント自らが執筆した論文。2008年金融危機後の量的緩和が本来の枠組みを超えて「機能獲得」し、資産格差の拡大と予測精度の低下をもたらしたと批判。FRBを物価安定と最大雇用という本来の任務へ回帰させる抜本的改革を提言している。
http://www.international-economy.com/TIE_Sp25_Bessent.pdf
Yahoo! Finance (2026/02/14) Ron Paul raises red flag on ‘US system of fraud’: Why excessive money creation is a ticking time bomb
ロン・ポールが米国金融システムを「詐欺」と断じた論考。中央銀行による通貨の過剰発行が国民の購買力を静かに破壊していると警告し、1971年の金本位制離脱以降のフィアット通貨制度が根本的に欠陥を抱えていると指摘している。
news.bitcoin.com (2025/08/01) Ron Paul Says Replacing Powell Won’t Fix Fed’s Deep-Rooted Policy Failures
パウエル議長交代論に対し「問題は制度そのものだ」と一貫して主張したロン・ポールの発言を報じた記事。FRBによる債務のマネタイズや金利操作という「中央計画」そのものの失敗を指摘し、議長個人の交代では何も解決しないと断言している。

Richard A. Werner (2003) Princes of the Yen: Central Bankers and the Transformation of the Economy
中央銀行の通貨創造権が一国の経済を支配する最強の道具であることを学術的に実証した名著。FRBの民間資本構造が民主主義的統治を空洞化するメカニズムを理解するための理論的基盤を提供しており、バブルの生成と崩壊が中央銀行の意図的な政策によって引き起こされるプロセスを解明している。

Richard Werner’s Substack (2025/09/01) Fed Faces Biggest Direct Challenge by a President since JFK – And this is a good thing
トランプによるFRB権限への挑戦を肯定的に評価した論考。「中央銀行の独立性」を盾にFRBを擁護する経済学者・メディアを批判し、通貨発行権の独占がもたらす弊害と民主的な関与の必要性を訴えている。

Urban Studies (2013/10/01) The dark side of NY-LON: Financial centres and the global financial crisis
ニューヨークとロンドンが形成するNY-LON軸が、2008年世界金融危機においていかに中心的役割を果たしたかを分析した学術論文。英米間の規制の競合と相互依存が金融化を加速させ、危機そのものをシステムの一部として定着させた構造を解明している。
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0042098012474513
Review of International Studies (2017/01) Perpetual decline or persistent dominance? Uncovering Anglo-America’s true structural power in global finance
ニューヨーク・ロンドンを軸とする英米金融の構造的支配が、デリバティブ・投資銀行・ヘッジファンドなど主要9部門において依然として圧倒的シェアを占めていることを実証した論文。中国など新興国の台頭にもかかわらず、金融インフラとネットワークを支配する構造的権力は揺るいでいないと指摘している。

YouTube (2026/04/22) Warsh Senate Banking Committee Testimony Full Hearing
FRB議長候補ケビン・ウォッシュが上院銀行委員会で行った指名承認公聴会の全編映像。コロナ禍以降の物価高騰をFRBの政策失敗と断じ、量的緩和の恩恵が金融資産保有者のみに集中したことを明言。「体制転換」の必要性を訴えた一次資料。
YouTube・CNBC (2026/04/22) Trump CNBC Interview on Warsh and the Fed
ウォッシュを「自分のすぐ隣のオフィスに置きたい」と語ったトランプのインタビュー映像。FRBの独立性という建前を否定し、大統領の経済方針とFRBの運営を密接に連携させる意図を示した発言として重要な一次資料。
Truth Social (2026/04/11) Donald Trump posts “WORLD EXTORTION”
たった4語、すべて大文字で投稿された宣戦布告。シティ・オブ・ロンドンを中心とした国際金融システムが1世紀以上にわたって価格操作や紛争管理を通じて不当な利益を得てきた構造を痛烈に批判した声明。トランプ政権の経済秩序再編への決意表明として読める。

Chatham House (2026/04/23) Not so special relationship: Can UK-US relations survive Trump 2.0?
米国上院との合同開催イベント。トランプによるFRB改革・自由貿易体制への挑戦・エネルギー自立が英国の国益と既存の金融支配体制に与える打撃を議論した記録。かつての緊密な英米同盟が「もはや特別ではない」ものへと変貌しつつある現実を既存秩序側が認めざるを得なくなった状況を示している。
Breitbart News (2026/03/27) Bessent Blasts Financial Times Over Fabricated Story on Federal Reserve Oversight
ベッセント財務長官がフィナンシャル・タイムズの「イングランド銀行モデルを模倣しようとしている」との報道を「捏造」と全否定した記事。米国独自の金融秩序構築という意志を明確にし、グローバル金融勢力の代弁者としてのメディアとの対立を象徴する出来事として位置づけられる。

Senator Rand Paul Official Website : It’s Time to Pass ‘Audit the Fed’
FRBが秘密裏に通貨を生み出し、特定銀行への資金投入や金利操作を行うことで実質的な「隠れた税金」を国民に課していると批判。政府会計検査院による完全監査を可能にする法案の必要性を論じたオピニオン。FRBの強大な権限を国民の監視下に置くことを訴えている。
https://www.paul.senate.gov/op_eds/rare-op-ed-its-time-pass-audit-fed
Federal Reserve Bank of Minneapolis – The Region (1992/12/01) Interview with Milton Friedman
ノーベル経済学賞受賞者ミルトン・フリードマンが「FRBは存在しない方が経済はより良く機能しただろう」と述べた歴史的インタビュー。1930年代大恐慌におけるFRBの失策と、裁量的政策よりもルールに基づく通貨供給を重視する立場から中央銀行制度そのものに根本的疑問を投げかけた一次資料。
Peter Navarro Substack (2026/03/27) President Trump’s Trade Revolution: In the Spirit of Hamilton, McKinley, and Clay
トランプ政権の経済政策を「アメリカン・システムの復活」と定義した論考。ハミルトンやクレイが提唱した国内産業保護と金融主権回復の思想的系譜を引き継ぐものとして現政権の経済哲学を位置づけ、グローバル金融支配からの離脱を理論的に正当化している。





