報道を見ていると、トランプが中東のさまざまな国々と衝突しているように感じるだろう。
無理もない。
しかし、詳細をよく観察すれば、トランプが戦っているのは国家ではなく、テロネットワークであることがわかる。
たとえば、アメリカはイラン国家を攻撃したのではなく、イランを乗っ取ったテロ組織であるイスラム革命防衛軍(IRGC)を標的にした。
イスラエルもレバノン国家を攻撃したのではなく、レバノン南部を不法占拠するテロ組織ヒズボラを攻撃したのだ。
今日、思わず吹き出したのは、IRGCの報道官が、停戦合意において「ホルムズ海峡通行に伴うサービスを提供し、通行料を受け取ることをアメリカと交渉する」とか報道されていたことだ。
テロ組織にそんな権利も権威もない。
本稿では、中東であたかも国家であるように誤報されるテロ組織と国家の違い、それらを結びつける歴史的構造、そしてトランプがこれに挑んだ意義を考察する。
テロ組織と中東国家の区別
中東で「国家のように」報道されるテロ組織の正体を、まず整理しよう。
これらの組織は、国際的にテロ組織として認定されながらも、特定の地域を事実上支配し、国家の機能の一部を果たしているように見えるため、混乱が生じやすい。
しかし、国家とは根本的に異なる。国家は国連加盟国として主権を持ち、外交関係や国内法に基づく統治機構を有するのに対し、これらの組織は主に暴力、代理戦争、外部からの資金・武器支援で権力を維持する。
イスラム革命防衛軍
イスラム革命防衛軍(IRGC)は、イラン国内の軍事・経済・政治に深く食い込んだ組織で、最高指導者の直接指揮下にある「影の政府」のような存在だ。イラン正規軍とは別に設立され、国内治安維持だけでなく、石油収入の密輸ルートや制裁回避ネットワークを掌握し、経済的実権も握る。
国外ではコッズ部隊を通じて代理勢力を支援し、中東全体の不安定化を推進する役割を果たす。
欧米はこれをテロ組織として指定しており、国家の正規軍ではなく、革命イデオロギーを武器に地域覇権を目指す非国家アクターだ。IRGCの存在がイランを「国家」として扱いにくくし、交渉を複雑化させる最大の要因となっている。
ハマス
ハマスはパレスチナ自治区ガザを事実上支配する政治・軍事組織で、2007年以来ガザを統治しながら、イスラエルに対するロケット攻撃やテロ活動を繰り返してきた。
ムスリム同胞団のパレスチナ支部として1987年に誕生し、イスラム主義を掲げるが、実際の統治は軍事優先で、市民生活を犠牲にしたトンネル網など軍事インフラを構築する。国際的にテロ組織認定を受け、イランからの資金・武器支援に大きく依存する。
ハマスの役割は、イスラエルとの恒常的な緊張を維持し、パレスチナ問題を「永続的な紛争」として利用することにある。国家のような行政機能を持つ一方で、ガザを「テロの拠点」として機能させ、地域全体を不安定化させる典型例だ。
ヒズボラ
ヒズボラはレバノン南部を軍事的に支配する組織で、「国家内国家」としてレバノン政府の弱体化を背景に実権を握る。
1980年代のレバノン内戦でイラン革命の輸出として誕生し、政治部門と軍事部門を併せ持つが、軍事力が圧倒的に強い。イスラエル北部への攻撃や、シリア内戦への介入を通じて地域を揺るがす。欧米のテロ指定を受け、イランからの直接支援(資金・武器・訓練)が命綱だ。
ヒズボラの位置づけは、イランがレバノンを「前線基地」として利用するための重要な代理戦力であり、イスラエルとイランの代理対立を象徴する存在として、中東の不安定化に中心的な役割を果たしている。
フーシ
フーシはイエメンで紅海沿岸や首都サヌア周辺を支配する組織で、2014年以降イエメン内戦を激化させた。IRGCからの支援を受け、紅海を通過する船舶へのミサイル・ドローン攻撃を繰り返し、国際海上輸送を脅かす。
テロ組織として米国などから指定されており、国家の正統政府に対抗する反政府勢力だ。フーシの役割は、ホルムズ海峡とは別の「紅海ルート」を不安定化し、石油輸送にリスクを上乗せすることにある。イランの「抵抗の枢軸」の一翼を担い、IRGCの支援を通じて中東全体の海上交通を人質に取る戦略的ポジションを占めている。
これらの組織が通常の国家と異なる点は明らかだ。国家は国連加盟や外交関係、国内法に基づく統治を持つが、これらの組織は主に暴力と代理戦争、外部支援で権力を維持する。
IRGCは、イラン国家の「影の政府」として石油収入や制裁回避ルートを握り、地域全体の不安定化を主導する。ハマスやヒズボラはIRGCからの資金・武器供給に依存してイスラエルや周辺国への攻撃を継続し、フーシも同様に紅海ルートを人質に取る形で国際交通を脅かす。
欧米のテロ指定は、これらの組織が国際法(これも🇬🇧都合の帝国主義保全ルールでしかないが)を無視した攻撃を繰り返すからだ。報道で「イランが…」「レバノンが…」と国家名で語られるのは、こうした組織が国家の仮面をかぶり、帝国の利益構造を支えているからにほかならない。
テロ・ネットワーク生成の歴史的経緯:イギリスの中東支配
これらのテロネットワークが中東を恒常的に不安定化させてきた背景には、20世紀初頭にイギリスが作り上げた地域構造がある。
まず起点となるのはエジプトのムスリム同胞団だ。1928年に設立されたこの組織は、当初は反植民地・反世俗を掲げたが、後に過激派の温床となり、中東全体にイスラム主義ネットワークを広げた。
イギリスは第一次世界大戦後、中東を自らの影響下に置く分割政策を進めた。特にバルフォア宣言から続く動きにより、アラブ民族主義を抑え込むための緩衝国家としてイスラエル建国を支援した。
このイスラエル政策が、アラブ側との恒常的な対立構造を中東に固定化した。イギリス自身が地域の不安定化を意図的に作り出した証拠の一つであり、20世紀を通じてこの地域の紛争は通常の国家間対立ではなく、外部勢力が養う代理ネットワークによるものだったと見るべきだ。
1979年のイラン革命で誕生したIRGCは、この構造をさらに強化した。イラン国内では正規軍とは別に革命防衛隊として設立され、最高指導者の直接指揮下で軍事・経済・政治の実権を握る存在となった。国外では代理勢力を育成し、中東全体への影響力を拡大した。IRGCの台頭が転換点となり、イランが中核となって代理勢力のネットワークを構築する枠組みが整った。
この枠組みの中で、ヒズボラは1980年代のレバノン内戦でイラン支援を受けて誕生し、レバノン南部を軍事的に支配する組織となった。ハマスは1987年にムスリム同胞団のパレスチナ支部として台頭し、ガザを拠点に活動を続けた。フーシもイラン支援を受けてイエメンで勢力を拡大し、紅海ルートを脅かす存在となった。これらの組織は互いに結びつき、イランを頂点とするネットワークとして機能するようになった。
歴史的に見れば、イギリスの分割政策が土台を作り、イラン革命後のIRGCそれを武器化した結果が現在の構造である。このネットワークは単なるイデオロギーの産物ではなく、外部勢力が地域を管理・利用するための仕組みとして生み出された。
隠されてきた大英帝国の経済的利益
イギリスが中東にこうした代理ネットワークを維持してきた本当の理由は、単なる地政学的な影響力ではなく、具体的な経済的利益にあった。
ピーター・ナバロが指摘する「テロ・プレミアム」がその核心だ。中東の二大石油通路であるホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡を意図的に不安定化させることで、石油価格を操作し、海上保険料率を吊り上げることができる。
このプレミアムは世界中の輸送コストに上乗せされ、最終的に消費者や企業が負担する「事実上の税金」となる。そしてその利益の多くは、シティ・オブ・ロンドンを中心とする金融・保険市場に吸収されてきた。
この仕組みは、緊張が完全に解消されない状態を意図的に維持することで成り立つ。
完全な平和と安定は保険需要を減らし、テロ・プレミアムを低下させる。適度な不安定さと偶発的な攻撃のリスクが、保険料を高止まりさせ、関連する金融商品の取引を活発にする。20世紀を通じてイギリスが築いてきた中東の紛争構造は、まさにこの「管理された不安定さ」を支える装置だった。
IRGCやヒズボラ、フーシといった組織が海上交通を脅かし続ける限り、このプレミアムは継続的に発生する。
現在もこの構造は生き続けている。IRGCがホルムズ海峡で「サービス料」や通行料を要求している事実は、国際海事法に明確に違反する行為だ。
国際法が保障する航行の自由を無視し、船舶に事前申請や軍事エスコートを強要する仕組みは、ただの海賊行為に他ならない。にもかかわらず主流メディアがこの違法な要求を「イラン側の主張」として批判なく報じる姿勢は、テロ組織のPRをしている構図である。
こうしたメディアの異常な姿勢は、帝国の利益構造を温存する役割を果たしており、これらテロ組織との闘いををただの「国家間対立」として中立的に描くことは、根本的な誤りであり、世論誘導でしかない。
トランプ政権の挑戦と100年に一度の転換点
イギリスが20世紀に構築した中東の紛争継続テロ・ネットワークと、それに乗じたテロ・プレミアム仕組みは、トランプ第二次政権の政策によって初めて本格的に揺らぎ始めている。
トランプは中東各国に対して、主権の回復と経済的自立を直接促してきた。これは、従来の帝国主義的な「管理された不安定さ」を解体し、各国が自らの利益で動く枠組みを作ろうとする動きだ。
イランとの覚書では、ホルムズ海峡の安定化を明確に進め、IRGCが違法に要求してきた「サービス料」や通行料の問題を事実上封じ込める方向で合意を導いた。湾岸諸国との対話では、欧州首脳よりもカタール首長やUAE大統領との時間を優先し、各国の主権を尊重した現実的な取引を重視した。
シリアについては、かつてアルカイダ系だった指導者を「有能で頼りになる」と評価し、ヒズボラ対策をシリアに任せるべきだとイスラエルに提案した。これらはすべて、代理勢力に依存した不安定化の構造を終わらせ、国家が国家として機能する道を開く試みである。
G7サミットでの動きも同じ文脈にある。欧州の多国間主義や既存の国際機関に頼るのではなく、各国の主権を基盤とした直接的な交渉を優先する姿勢は、旧来の帝国の枠組みそのものを相対化している。トランプが中東で進めているのは、単なる停戦や妥協ではなく、20世紀にイギリスが作った永続的な紛争構造と、それに便乗する金融的利益の仕組みを根本から問い直す挑戦だ。
ここで、ロイターが自ら掲げる「いかなる国の政策とも同一視されない」という原則を思い起こしてみてほしい。 どの国の政策とも同一視されないと宣言しているロイターが、IRGCの違法な通行料要求を「イラン側の主張」として批判なく報じる。中立を装いながら、帝国の利益構造を温存する側に立つ。これが「独立したジャーナリズム」の実態だ。
トランプが中東各国に主権と経済的自立を促す動きは、旧秩序への挑戦などという生易しいものではない。帝国が100年かけて設計した「管理された不安定さ」の構造は、すでに壊れた。ホルムズ海峡が再開し、湾岸諸国が自らの主権で動き始めた。テロ・プレミアムで世界を食い物にしてきた大英帝国のビジネスモデルは、崩壊した。
参考文献
Institute for the Study of War (2026/06/13) Iran Update Special Report, June 13, 2026
イラン外相アッバース・アラグチ氏が米イラン覚書(MOU)について述べ、ホルムズ海峡の管理をイランとオマーンが行い「サービス料」を徴収すると主張した内容を詳述。米国が求める恒久的な通航料なし・イラン管理なしの立場との乖離を指摘し、IRGC系メディアの主張とも整合すると分析。本文でIRGCの違法な通行料要求と国際海事法違反の文脈で参照。

Al Jazeera (2026/06/17) Strait of Hormuz reopens: But can ships’ safety be assured?
イラン側がIRGCによる船舶調整と「サービス料」を前提とした再開を主張している点を解説。本文のホルムズ海峡をめぐる違法要求とメディア報道の問題を補強。

Reuters (2026/03/16) Trump adviser says Iran ‘terror premium’ inflated oil prices for decades
ピーター・ナバロ氏がイランによるホルムズ海峡の脅威が長期的に原油価格を押し上げてきた「テロ・プレミアム」を指摘した内容。本文の帝国のビジネスモデルと石油通路不安定化の核心を支える。
The Wall Street Journal (2026/03) Iran War Will Lower Energy Prices
イラン関連の地政学的リスクが原油価格に「Iran Terror Premium」を課してきたとし、トランプ政権の政策がこれを除去すると主張。本文のテロ・プレミアム論の参照記事。
https://www.wsj.com/opinion/iran-war-will-lower-energy-prices-052c7302
The New York Times (2026/06/15) President Trump Lost This War
トランプのイラン政策を批判的に位置づけ、覚書の内容を分析。本文で既存メディアの旧秩序擁護的な視点を対比させる文脈で参照。
https://www.nytimes.com/2026/06/15/opinion/-trump-lost-war-iran.html
Institute for the Study of War (2026/06/14) Iran Update Special Report, June 14, 2026
米イラン覚書(MOU)の内容を詳細に分析し、ホルムズ海峡再開、停戦延長、経済的譲歩などを含む合意の全体像を整理した報告。本稿で扱っている米イラン交渉の文脈や、トランプ政権の中東政策の方向性を裏付ける資料として適している。

YouTube (2026/06) Vice President JD Vance on Iran Deal (CNBC出演)
副大統領ヴァンス氏がイラン体制内のあらゆる勢力との対話を強調した内容。本文のトランプ政権の全方位アプローチと主権外交の具体例として参照。




